ファーウェイ幹部解放に見る米中の実利的対応 - WSJ
中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の経営幹部、孟晩舟氏が米国での訴追を免れて解放された。その舞台裏で行われた交渉は、米中両国間の対立要因を取り除くとともに、これまでほとんど知られていなかった両国関係の実利的な側面を示すものとなった。
米中両国は、技術や人権問題から中国の領有権主張に至るまで、多くの面で対立している。国連事務総長は今月、両国関係を「完全な機能不全の状態」と評した。
しかし、気候変動問題での協力やビザの発給状況など、ジョー・バイデン米大統領就任後に増している融和的動きは、米中双方が関係改善に向けた萌芽(ほうが)を逃すまいと考えていることを示唆している。
こうした動きは、米中の深刻な対立関係の周辺部分で起きているもので、台湾や南シナ海での中国の領有権の主張など主要な対立点に関しては、雪解けの兆しは見られない。中国の領有権の主張により、両国が軍事衝突に向かうリスクを懸念する人もいる。
しかし24日には、綿密に練り上げられた計画に基づくとみられる捕虜交換の形で、これまでで最も顕著な実利的対応の兆候が見られた。
ファーウェイ経営幹部の孟晩舟氏は、中国の巨大通信会社である同社とイランの取引に関して自らが虚偽の報告を行ったことを認め、米側は孟氏の刑事訴追を猶予し、その後取り下げに同意した。これは米司法省と孟氏との合意に基づいた対応だった。カナダで拘束され米国への移送に抵抗してきた孟氏は、これによって自由の身となりカナダから中国に飛び立てることになった。
孟氏の中国帰国が近づく中で、中国当局は、マイケル・スパバ氏とマイケル・コブリグ氏の2人のカナダ人を解放した。両氏は、2018年に孟氏が初めて拘束された数日後に、中国で収監されていた。2人はカナダ空軍のジェット機でカルガリーへと飛び立ち、3年に及ぶ苦難に終止符が打たれた。米国の重要な同盟国であるカナダの政府の苦難もこれで終わった。
バイデン政権の考えをよく知る人物は、今回のファーウェイ絡みの出来事について、米司法省がホワイトハウスとは別の立場から決断を下したと指摘。今回の1件と米中間の対立解消に向けたより広範な外交努力とは無関係だという。
中国の国営メディアは、今回解放されたカナダ人について、健康上の理由から仮釈放されたと伝えている。
中国の施設からカナダ人を釈放させるのに思い切った取引が必要だったように見えることは、中国に住む外国人の一部にとって懸念材料の一つだ。彼らは将来論争が起きた場合に中国政府が再び外国人を拘束しようと思う可能性があると述べる。企業幹部や業界団体なども対立が終わったように見えることに安堵(あんど)感を示しているものの、孟氏に対する米国の主張には問題となる側面があるとみる向きもある。
ニューヨークに本拠を置く助言組織、米中関係全国委員会の代表を務めるスティーブン・A・オーリンズ氏は、「うまく進んでいないことが多くある。少しは良いことを目撃したが、それは限られている。(その中で)今回のことが最大であることは確かだ」とし、「これが前向きな機運を高めてくれることを期待したい」と話した。
米中双方はここ数カ月間、両国関係の火種となっているものに対応してきた。在中国米国領事館は、何万人もの中国人学生に対する査証(ビザ)の発給を認めた。米司法省は7月、中国軍との関係を隠していたとされる客員研究員5人について訴追を取り下げた。米国の政府機関は、テンセントホールディングスの万能アプリ「ウィーチャット(微信)」やバイトダンス(字節跳動)の「TikTok(ティックトック)」など、トランプ前政権が安全保障上のリスクだと特定していた中国のハイテク商品に対する措置を停止した。
一方、習近平国家主席は今月、中国として今後外国に石炭火力発電所を建設しない意向を示し、バイデン政権が押し進めている気候変動関連の目標の一つに対応した。アメリカ穀物協会によると、中国は今年、米国産のトウモロコシと大麦、ソルガムの輸入を増やした。加えて、中国は最近、ワシントンに新たに大使を派遣。同大使は訪問者らに双方向のコミュニケーションが有益だと述べている。
24日に突破口が開かれた背景には、11月に英グラスゴーで開かれる第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で中国が気候に関する世界的な取り決めを支持することをバイデン氏が望んでいることや、習氏が北京で開催予定の冬季五輪でボイコットによる不快感を受けることを避けたいと考えていることがあった。
バイデン氏は大統領就任以降、同盟国と協力して中国政府に圧力を加えるなど、中国が世界での影響力を強める動きに対抗する一方で、同国との緊張緩和を模索してきた。
バイデン氏は21日の国連総会での演説で、同盟関係の構築と外交を基盤とする外交政策上の世界観について説明し、新たな冷戦には興味がないと主張した。
米中の首脳はまた、意思疎通の手段を常に確保し、時に話がかみ合わないこともあるものの、今年は2回長時間の電話会談を行っている。ホワイトハウスは今月米中首脳間で行われた90分間の電話会談について、両国関係を「責任を持って管理」し、「競争が紛争に移行しないようにする」ための米国の継続的な取り組みの一環だと説明している。
米中両国の指導者は、ともに対立を望まないと断言していたものの、今年3月の米アラスカ州での米中外交トップの会談が激しい論戦となるなど、両国政府代表は公式会合の場でぶつかり合っていた。両国軍(の艦船や航空機)は、東シナ海や南シナ海で中国が領有権を主張する海空域で頻繁に出くわしている。
バイデン政権の見解によれば、中国の行動は徐々に拡大してきたもので、新たな協調の精神の反映ではなく同国が直面する圧力を反映している。バイデン政権の中国問題に関する内部協議に詳しい関係者が語った。同関係者は対中関係について、非常に複雑であり、前向きな展開が一つあるごとに、未解決となっている多くの厄介な問題が存在すると指摘した。
ワシントンの中国大使館および中国外務省はこの週末、質問に対して回答しなかった。
バイデン政権が特定の課題について協力を図ろうとしてきたのに対し、中国政府は両国の全般的な関係に対処するための協議を求めてきた。バイデン米政権で気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使が今月訪中した際、王毅外相の発言がそのことを明確にした。同氏は「気候変動に関する協力は、米中関係の全般的な状況から切り離すことはできない」と表明した。
問題は、こうしたステップがどれほどの意味を持つのかということだ。
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購読トランプ前政権で国家安全保障担当の大統領副補佐官を務め、現在はワシントンにある保守系シンクタンク、民主主義防衛財団で中国プログラムの責任者に就いているマット・ポッティンジャー氏は、「多少の渦、小さな水たまり、そしてさざ波は存在するが、大きな変化の流れは中国がより攻撃的かつ好戦的、そして傲慢(ごうまん)な政策の方に向かっている」と述べた。
幾つかのケースにおいては、具体的な行為がトランプ前政権によって動き始めた計画を取り除いた。トランプ前政権は2020年初めに調印した貿易協定の実現にエネルギーの大半を割いたが、新型コロナウイルス感染のパンデミック(世界的大流行)により中国政府への不信感を強めることになった。
しかし、バイデン氏は中国の鉄鋼やアルミニウム、洗濯機、太陽光パネルその他製品への関税などドナルド・トランプ氏から引き継いだ他の幾つかの分野への圧力を維持している。バイデン政権は引き続き対中経済・貿易政策の見直しを行っているところだ。
中国問題に関するバイデン政権の内部協議に詳しい関係者によると、この見直しは近く完了する見込み。
そして24日の孟晩舟氏をめぐる司法取引にもかかわらず、ファーウェイに対する米国の締め付けは引き続き広範囲で厳しいものとなっている。