総務省に振り回される業界各社、AIとカメラの進化で加速するスマートフォン~2018年のモバイル業界を振り返る~

2018年のモバイル業界でもっとも話題になったトピックと言えば、やはり、菅官房長官の「4割下げられる余地がある」発言をおいて、他にはないだろう。

2015年の「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」を後押しすることになった安倍総理の「携帯電話料金引き下げの検討を指示」というニュースも業界に大きなインパクトを与えたが、今年の菅官房長官の発言は、『4割の値下げ』という直接的かつ具体的な内容で、現在、総務省で催されている「モバイル市場の競争環境に関する研究会」での議論にも強い影響を残している。

12月26日に開催された「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)第5回

しかし、その発言については、本連載でも指摘したように、4割の根拠が不正確なデータに基づいているうえ、民間企業の価格設定や販売方法に政府が介入するという、とても自由主義経済とは思えないような動きに違和感を覚えたのは、筆者だけではないはずだ。

この件については、またあらためて取り上げたいが、日本の通信行政は元々、電電公社を民営化し、規制緩和によって、通信の自由化を実現し、競争環境を作り出すことで、料金の低廉化やサービスの拡大を実現してきた。にもかかわらず、今回は(今回も?)総務省と有識者による研究会は、各携帯電話事業者の端末販売方法や料金施策に口を挟み、挙げ句の果てには販売店まで登録制にするという、これまでの時代の流れに逆行するような方針を打ち出している。

本来、通信料金は技術の進歩によって、単価を下げられるため、年を追うごとに料金の低廉化が実現できるはずだ。特に、モバイル業界は技術の進歩が著しく、世代を追うごとにビット単価を下げてきた実績があり、今後も5Gへ向けて、その流れを継続できる状況にある。「国民共有の資源である電波を借り受けているのだから、介入は当然」という指摘もあるが、各携帯電話会社は電波利用料を支払っており、もし、必要であれば、テレビやラジオの放送も含め、電波利用料の見直しをすればいいことだ。

総務省に振り回される業界各社、AIとカメラの進化で加速するスマートフォン~2018年のモバイル業界を振り返る~

また、今回の研究会の議論は、端末の購入補助金などを排除することで、料金の低廉化を実現しようとしているが、以前の記事でも説明したように、現在のまま、各携帯電話会社の料金を4割、下げてしまうと、当然のことながら、MVNO各社の息の根を止めてしまうことになり兼ねない。

むしろ、携帯電話サービス全体の料金の低廉化を実現するのであれば、各携帯電話会社がMVNO各社に提示している接続料を下げるべきだが、12月26日に開催されたモバイル研究会の第5回でようやく取り上げられたものの、その内容はUQコミュニケーションズとWCPの2社の扱いなどに触れるのみで、肝心の接続料に対するアイデアは何も提示されなかった。

現在の接続料の計算式は契約数に基づいているため、契約数の多いNTTドコモが安く、契約数の少ないソフトバンクが高くなっている。しかし、「国民共有の資源である電波を借り受けている」という事実に基づくなら、たとえば、各携帯電話会社に割り当てられた周波数帯域幅(割当周波数の多さ)を係数に加えるなど、新しい工夫が必要になるが、そういった話題もまったく提示されていない。接続料については別の研究会で議論されており、そちらの研究会と連携する動きでもあれば、まだ理解できるが、そういった話題は何も取り上げられていない。

今回の一連の議論を見ていて、非常に違和感を覚えたのは、モバイル業界全体として、襟を正さなければならないことはあるものの、未だに携帯電話会社もMVNO各社も「御上(おかみ)から周波数帯域を拝領して、携帯電話サービスを献呈させていただいている」ようなスタンスにしかなっていない点だ。

国民共有の資源である電波を利用して、サービスを提供していることは確かだが、前述の「通信の自由化」や「規制緩和」の流れを受け継いだ自由闊達な議論や発言がほとんどできておらず、総務省や有識者による研究会の顔色をうかがいながら、ヒアリングなどに応じている状況だ。

たとえば、菅官房長官の「4割値下げ」発言に対し、前述のように直接的な影響を受けるMVNO各社は「各携帯電話会社の料金値下げの前に、まずは接続料を下げるべき」と発言すべきだが、そういった発言はまったくなく、後日、催された総務省の研究会において、一部のMVNO各社が発言しただけに過ぎない。

菅官房長官の発言に対するコメントも「低廉な料金プランを用意しており、ある程度実現できてると考えている」(NTTドコモ)、「引き続き今後もお客さまのニーズに応えられるようサービスの向上に努めて参ります」(au)、「引き続きお客さまにとってより良いサービスを検討していきます」(ソフトバンク)といった内容だ。これらのコメントは各社の本心を表わしていないのかもしれないが、業界全体で建設的な議論や提案ができるような環境を作っていかなければ、今後も総務省や政府に振り回され続けることになってしまいそうだ。