5S活動の基礎知識

製造業や建設業で働く人なら、5S活動という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。5S活動を導入すると、生産性向上、安全管理、品質管理など目に見える効果があります。さらに、組織が活性化し、技術の伝承や人材の育成にも大きな影響を与えます。そうした5S活動の特性や注意点を、8回にわたって解説します。

もくじ

第1回:5S活動に取り組むべき理由

今回は事例を見ながら、5S活動の意味、目的、要素を学びましょう。

1. 5S活動とは?

5S活動とは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の総称です。ローマ字で書くと、頭文字が全てSになるので、5S活動と呼ばれています。最近では、製造業や建設業のみならず、サービス業でも5S活動に取り組んでいるようです。しかし、よく知られている割には、本当の意味や効果は理解されていません。年末の大掃除や片付けの延長線であったり、断捨離などと混同されています。

図1:5S活動前後のオフィスの写真

図1の写真を見てください。Aは古臭く乱れた状態です。Bはきれいですっきりとしたオフィスです。実は、この2枚の写真は、5S活動前後の同じ会社の同じ部署を撮影したものです。4カ月の5S活動で成果が出てきました。一見、単に片付けが進んだようにも見えます。実は、社員の服装や机の位置も変わり、オフィスの機能性が向上しています。これは、社員たちの意識が大きく変わった証拠です。

近年、人々の価値観は多様化しており、世代間や部門間での意識のズレは小さくありません。以前であれば、経営者や管理職の「ちゃんと」「きちんと」という言葉の意味は、組織内で共有されていました。しかし、今は正確に伝わらなくなっています。つまり、組織の至る所で意識のズレが生じています。5S活動を正しく行えば、この意識のズレを統一することができるのです。

図2は、小さなメーカーの5S活動前後の製造現場の様子です。

図2:5S活動前後の製造現場の写真

この会社は製造現場が狭いことを言い訳にして、なかなか変化できませんでした。部門間には隔たりがあり、コミュニケーションもうまく取れていませんでした。しかし、選ばれたリーダーやメンバーが5S活動を通して改善する技術を学び、それを製造現場で展開し、生産性を向上させました。5S活動の前後では、働く人も、場所も、業務も同じで、当然屋号も同じです。しかし、別の会社のように見えます。

2. 5S活動は「意識改革」のツール

実は、5S活動は「意識改革のツール」なのです。人間は経験の生き物なので、従来の考えを簡単に捨てることはできません。その上、仕事では業界の常識や地域特性も加わり、なかなか変化できません。組織になると、世代間格差や職位・部署の違いによって意識が異なり、さらに変化できなくなるのです。

このような状況で、5S活動が大きな役割を果たします。理由は、……

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3. 5S活動の要素

5S活動は「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」という5つの要素で構成されます。道徳の教科書に出てきそうな抽象的な言葉です。抽象的なので、簡単に片付けなどと思い込んでしまいがちです。しかし、5S活動は組織的な活動で、その要素にそれぞれ意味とつながりがあります。

  1. 整理:不要なものを捨てる。必要なものだけを残す。
  2. 整頓:必要なものを働きやすく再配置する。そして表示を行う。
  3. 清掃:表示に従って、頻度を決めて「点検保守」を行う。
  4. 清潔:整理、整頓、清掃という3つのSを維持する。
  5. しつけ:組織が定めたルールを全員で守る。
図3:5S活動の模式図

そして、5S活動は上から順番に行う必要があります(図3)。それぞれの要素がつながっており、……

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第2回:5S活動の整理とは?

前回は、事例を見ながら、5S活動の意味、目的、要素を学びました。今回は、5S活動の枠組みと、1つ目の要素「整理」を解説します。

1. 5S活動の枠組み

5S活動を始めるときに注意すべきは、5つの要素がつながっているということです。それぞれの要素を単独の「点」ではなく、1つの流れとして捉えます。そして、組織で取り組むときには、2S(整理・整頓)と2S(清掃・清潔)と1S(しつけ)の枠組みで考えます。この3つの段階を踏んで5S活動は完成し、維持されます。

2. 5S活動の「整理」とは?

5S活動の「整理」とは、シンプルに「不要なものを捨て、必要なものだけを残す」という意味です。単純にいえば、要らないものを捨てることですが、注意が必要です。組織にはいろいろな価値観があり、キャリアや立場によって不要なものの意味は違います。例えば、新人が不要と思う古い機械も、ベテランにとっては重要だったりします。また一見すると不要な文書も、他の部門にとっては重要だったりします。不要の意味が組織の中で統一されていない、理解されていないために、職場では不要なものが次第に増えていきます。

組織がものを捨てられない原因となる心理は、次の3つです。

  1. 使うかもしれない(将来への恐れ)
  2. もったいない(高価なもの)
  3. 思い出がいっぱい(会長や社長の思い入れ)

この中で一番厄介なものは、……

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3. プロセス共有のための赤札作戦

ものを捨てられない心理、ものを捨てられない状況の積み重ねは、組織の機能性を悪くしています。5S活動では最初の「整理」を行う際に、組織の中で捨てるものの基準を考えます。例えば、未使用の期間、壊れている機械、現在の規格に合わない道具や機器、余った材料など、組織の統一見解を定めます。それに基づいて「赤札作戦」を実施します。

赤札作戦とは、活動推進チームや部署で、3色の札を使って、不要なものを判断する取り組みです。赤札は廃棄するもの、青札は移動させるべきもの、黄札は自分たちでは判断ができないものに貼ります(図2)。図3 は、赤札を貼った廃棄物です。

図2:赤札、黄札、青札図3:赤札を貼った廃棄物

赤札活動は、……

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4. 「整理」の注意点

器に新しいものを注ぐときには、以前入っていたものを捨てなければ、新しいものを入れられません。同じように組織でも、新しい概念や風土を取り入れる際に、以前の感覚や意識を一度リセットする必要があります。5S活動の「整理」は、まさにこのリセットの役割を持っています。この活動の精度や思い切りの良さが、最終的な 5S活動のレベルを決めます。

5S活動の「整理」の注意点は、2つあります。1つ目は、保管期限です。財務関係の書類には7年間(もしくは9年間)の保管義務があります。また、顧客要求で保管期限があるものは、勝手に処分できません。減価償却期間中の機材や機器を捨てると、会計処理上で複雑な手続きを行う必要があります。これらの点に注意して、思い切った判断をしましょう。

2つ目は、……

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第3回:5S活動の整頓とは?

前回は、5S活動で最初に行う「整理」を説明しました。5S活動の「整理」とは、不要なものを捨て、必要なものだけが残っている状態にすることでした。今回は「整理」の次に行う「整頓」を解説します。

1. 5S活動の「整頓」とは?

「整頓」とは、作業する人が動きやすく働きやすい環境を整え、ものの位置が分かるように「表示」を行うことです。5S活動で重要なのは、働きやすい環境を作ることです。

オフィスや工場内で、必要なものがどこにあるのか、どれくらい残っているのか分からない、通路や搬入路が狭くて動きにくいと感じたことはありませんか? 不要なものがあふれている場所では、このような現象が発生しています。組織の生産性やコミュニケーションが大きく阻害され、個人のモチベーションも下がっている可能性があります。

2. 導線を確保するための再配置図

5S活動の最初の「整理」が終わった段階でオフィスの入り口や工場の中央に立つと、随分とものが減ってスッキリとした印象を受けることでしょう。いかに、無駄なものを置いていたかが分かります。5S活動に取り組んだ多くの組織で、4トントラック数台分の不要なものがありました。中には大型ダンプトラック42台分の不要物を処理した組織もありました。その結果、オフィスや工場内には新たなスペースが発生します。そのスペースを作業空間にするため「再配置図」を作ってみましょう。図1は、実際のオフィスと倉庫の再配置計画図です。何をどこに置くのかも具体的に書かれています。

図1:再配置計画図

再配置図を作る上で大切なのは、……

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3. 表示の重要性

5S活動の中で技術的に最も重要なことは、整頓の「表示」です。表示とは、誰が見てもそこに何があるのかが分かる仕組みです。その部署にいる人だけではなく、他部門の人、初めて見た人たちも、一目で分かることを意味します。図4、図5に実際の表示の例を示します。

図4:型番と在庫数の表示図5:機械番号と責任者を明示した表示

オフィスにはさまざまなものがあります。個人管理のもの、共有するもの、特定の人が使うものなどがあります。店舗でも今から店頭に出すもの、保管するもの、返品するものなどがあります。工場では、資材・中間品(加工途中)・一次完成・検査前・検査完了・出荷品など、さまざまな工程の製品が存在します。さらに、……

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4. 表示を行う際の注意点

表示を行う際は、まずサイズとフォントを統一します。3センチ、5センチ、10センチなど、ものと場所によって表示サイズを分けていきます。中カテゴリの表示はA3サイズ、天井などからつるす大カテゴリは巨大なサイズのものが必要です。表示に使用する紙の色も検討します。実際にある工場では材料・資材は黄色、中間品は緑、検査前は赤、検査完了は紫、出荷品集荷品は青という色別で、工程とものの関係が瞬時に分かる仕組みを作っています。最近では、……

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5. 表示と生産性の関係

……

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5S活動の基礎知識

第4回:5S活動の清掃・清潔・しつけとは?

5S活動は単なるスローガンではありません。壁に5S活動のポスターをペタペタと貼り付けても組織は変わりません。実際に体を動かし、それぞれの要素を理解することが大切です。前回は、5S活動で行う「整頓」を説明しました。今回は、「整理」「整頓」の次に行う「清掃」「清潔」「しつけ」を解説します。

1. 組織の性質を知る

この基礎知識が始まってから、活動前後の写真について「どのように取り組んだら、あのように鮮やかな変化ができるのか?」という質問がいくつかありました。活動の前後を見比べると、別の組織のような印象を受けます。それは、活動に入る前に周到な準備をしているからです。

組織には、「2:6:2の法則」があります。何も意識しない状態の組織は2割の「このままではいけないという危機意識を持ったグループ」と、6割の「強い方へ付くグループ」と、残り2割の「変化したくないと考えるグループ」に分かれます。(図1)

図1:2:6:2の法則

危機意識を持った2割の人たちは、経営陣と同じように危機意識を共有しています。そのため、6割の人たちが変化すれば組織が変わると考え、朝礼や会議でさまざまな話をします。しかし、6割の人たちは強い方に付くという性質を持っているので、言葉では変化しません。そこで、……

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2. 「清掃」は活動の維持に不可欠なもの

5S活動の「清掃」は、場所やものをきれいにするという単純なものではありません。図2のように、整理で不要なものがなくなり、整頓によって使いやすくなり、表示によりものを置く場所が決まります。そうした仕組みが出来上がった後の清掃は「点検・保守」という性質を持ちます。毎日、毎週、毎月、3カ月おきなどと頻度を決めて清掃を行います。図3のように、統一したルールと全員参加で清掃を行います。ものの位置が間違っていれば、……

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3. 「清潔」を意識すると活動が停滞しない

5S活動の「整理」「整頓」「清掃」は、体を動かして活動を行う「Do Action」です。対して「清潔」は、維持するための「〜ing」活動です。「整理」で不要なものを捨てる。「整頓」で表示された場所にものを戻す。「清掃」でそれらを点検保守する。この3項目を維持することで、「清潔」は保たれます。業界にかかわらず、不潔な場所から高い品質の製品やサービスは生まれません。昨今は、顧客の要求レベルが高くなり、……

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4. 「しつけ」は組織の命

5S活動を行っていない組織を訪問したとき、従業員が挨拶をしなかったり、印象が悪いことが少なくありません。服装も、制服が汚れている、だらしない格好をしているのをよく見かけます。会社の受付の電話対応でも、ぞんざいな対応をされることもあります。そうすると、どんなに良い製品やサービスを持っていても、組織の印象は一気に悪くなります。そして、大抵、車両が汚れていたり、職場内がほこりだらけだったりします。

5S活動の最終目標は、しつけができている姿です。

……

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第5回:5Sルールと組織風土

5S活動は目的ではなく、組織を活性化させるための「ツール」です。うまく使えると大きな効果を期待できますし、使い方を誤ると組織に大きな負担がかかります。今回は活動を維持継続するためのルールに関して解説していきます。

1. ルールが守られない理由

組織内のルールは往々にして守られず、形骸化してしまいます。5S活動も同様です。整理や整頓のように変化が見えやすい活動と比べると、変化が見えづらくなる清掃から活動が下火になってきます。そして、清潔やしつけは活動そのものが消えてしまいます。

組織でルールが守られない理由は3つあります。

それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。

1:ルールの分量が多すぎる

これは、品質や環境のISOマネジメントシステムの導入が形骸化してしまう理由の一つです。あなたの会社も監査前だけ慌てていませんか? マニュアルは、分量が多くなるほど複雑な内容になり、読まれなくなってしまいます。社員全員がマニュアルを読んでいないのに、本当に優れたパフォーマンスを発揮できるのか、真剣に考える必要があります。

2:ルールに理想を書きすぎる

……

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2. ルール策定時に注意すべき3つのポイント

5S活動がある程度進んで、それを維持しようとする時、どのようなことに注意すればいいでしょうか。結論からいえば、守られない理由の逆を行えばいいのです。

図2:ルール策定のフロー

まず、ルールの全体量をA4用紙2枚に制限します。両面で印刷すればA4用紙1枚になり、正社員だけではなく、パート・アルバイトの人たちにまで渡して、広く周知できます。

そして何よりも、分量が限られているので、優先順位の高いものを短く表現しなければなりません。例えば、……

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3. 組織風土作りのための行動指針

ルール作成時には、組織風土の再構築という観点が不可欠です。この観点から、ルールを作る時に押さえるべき要素があります。それは、組織人要求と社会人要求です。図4のとおり、それらは自社ルールと社会のルールの橋渡しをしていて、多様化する価値観への対応に必要です。

図4:組織人要求と社会人要求

あいさつや服装など、社会人としての常識は組織風土と密接に関わっており、第三者から見た印象を大きく左右する要素です。そのため、……

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4. 詳細は下位ルールも決める

A4用紙2枚のサイズでは、多くのことは書けません。その時は「なお、詳細は別紙のルールに従う」と記載し、ルールを体系化しましょう。例えば機械管理、清掃ルール、備品管理ルール、安全手順などはA4用紙2枚では書ききれません。下位ルールも見直しをして5Sルールに組み込みましょう。

清潔やしつけのレベルや内容は、業界や事業規模、地域によって随分と異なります。ある意味、基準はありません。本当に大切なことは……

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第6回:現場から利益を生み出す

5S活動は、利益と密接な関係を持っています。「片付けたくらいで利益など出るはずがない」という手厳しいご意見を耳にすることもあります。しかし、全社一丸になって5S活動を推進し、清潔・しつけまで順守できている組織の多くは、しっかりと利益を上げています。今回は、現場から利益を生み出すために、なぜ5S活動が有効なのか、ご紹介します。

1. 利益を認識することが重要

5S活動が進むと、用具の置き場所や通路の確保、仕事の手順や情報共有の仕方、あいさつや電話対応といったマナーについてまで、仕組みを再構築します。その結果、5S活動が始まる前よりも、やるべきことと、やめるべきことの理解が進みます。例えば、「きちんと片付ける」「ちゃんと掃除する」という指示は具体的ではありません。5S活動により、どのように片付けるのかが明確になり、個人の感覚で行っていた業務活動に統一感が出てきます。

利益に対する考え方も同様です。会計用語としての「利益」は抽象的で分かりづらく、組織として共通の認識を持つことは難しいものです。しかし、5S活動と同様に、明確で統一された認識を全社員が持つことができれば、組織の利益体質は大きく変化します。

2. 絶対利益という新しい概念

組織では、さまざまな数字がコミュニケーションツールとして使われています。売上、利益、損益、前年対比、前月対比、粗利益などがあり、それぞれに意味のある数字です。しかし組織の全員が、これらを正確に理解できているわけではありません。例えば、決算書には売上総利益、経常利益、営業利益、税引前当期純利益、純利益という5つの利益が登場します。これらを、組織のさまざまな立場の人たちに理解させるのは至難の業です。そこで、利益という言葉を、原理原則に従って再構築してみましょう。

組織には、これだけ集められなければ倒産するという、最低限度の利益額があります。この利益のことを、絶対に集めなければならない利益として、「絶対利益」と定義します。絶対利益は、視点を変えれば、絶対に支払わなければならない経費です。組織には、仕事がなく、売上がゼロでも必要な4つの経費があります。

これらの合計金額は、絶対に支払わなければならない経費です。1年の間にこれらの合計金額を集めることができれば、組織は倒産しません。つまり、絶対利益はこれらの合計金額と同じ値です。

 絶対利益 = 固定費 + 税金積立費 + 短期借入金返済費 + 運営費

図1:絶対利益

絶対利益を用いて考えるメリットは、……

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3. 変動費の削減に集中する

必要な絶対利益を算出した後は、変動費の削減を目標に掲げます。変動費とは、仕事の発生に伴い必要となる金額のことで、仕事の規模に応じて大きく変動します。変動費の内訳は、材料費や燃料費、外注費や仕入れにかかる費用などで、外に支払う費用が多く含まれています。そのため、変動費の削減に集中することで、外に支払う費用を減らすことができ、利益を増やせます。

必要な絶対利益を算出した後は、変動費の削減を目標に掲げます。変動費とは、仕事の発生に伴い必要となる金額のことで、仕事の規模に応じて大きく変動します。変動費の内訳は、材料費や燃料費、外注費や仕入れにかかる費用などで、外に支払う費用が多く含まれています。そのため、変動費の削減に集中することで、外に支払う費用を減らすことができ、利益を増やせます。

ある期間内に実際に獲得した利益の内、絶対利益と比較する数字(獲得絶対利益)の算出はとてもシンプルです。数式で示すとこうなります。

獲得絶対利益 = 売上金額 – 外に支払う費用

獲得絶対利益は、1つの仕事による売上金額から外に支払う費用を引いて算出します。工場の獲得絶対利益は、工場で請け負った仕事の売上から外に支払うべき費用を引いたものです。店舗の獲得絶対利益は、1店舗のある期間内の売上から支払うべき費用を引いたものです。業務別、事業所別、個人別に置き換えたとしても、単純に引き算で出すことができます。獲得絶対利益が絶対利益より多ければ、組織は倒産しません。上記の式を見ると、獲得絶対利益を増やすには、……

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4. 絶対利益と5S活動との親和性

変動費を減らすには、どうすればいいのでしょうか。組織から利益が失われる要因のうち、一番大きなものは、無駄の発生です。

材料や道具の購入費は、変動費に含まれます。搬入に手間取ることで発生する残業代も変動費に含まれます。つまり、……

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5. 利益は現場に眠っている

5S活動と絶対利益の考え方を組み合わせて、活動前に18,000万円もあった在庫を3,000万円まで減らした組織があります(図5)。工具や道具の購入費が年間400万円を超えていた工場では、仕組みが出来上がってからは年間100万円を下回りました。ある会社では、年間2,800万円必要だった機械の修理代を、始業点検の徹底や社内における修理技能の向上により、980万円まで減らしました。どの組織でも変動費を減らすことに集中して 5S活動の精度を上げ、結果的に大きく収益を伸ばしています。このように、利益は現場にいくらでも眠っています

図5:資材と表示を可動式にして誤配達を低減し、在庫を3,000万円まで圧縮

利益の推移を可視化して社員に公表することで、モチベーションを高めることも有効です。図6は限界利益を可視化した事例です。限界利益絶対利益から税金の積み立てや運用利益などを引いたものです。このような利益の管理は、……

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第7回:5S活動と教育訓練

前回は、現場から利益を生み出すという観点から、5S 活動と利益の関係性と考え⽅を解説しました。今回は、5S活動と教育訓練の関係を説明します。組織では、たくさんの教育訓練が行われます。業界特有の技術・法令・規制・安全・衛生管理や、階層別の教育まで、組織が行うべき教育は数多くあります。これらの教育が本当にうまく機能しているのか、5S活動を通して考えてみましょう。

1. 組織に不足している3つの教育

現代企業の課題の一つは「価値観の多様化」です。世代によって、仕事に対する意識は少しずつ異なっています。例えば、最近の新入社員は、仕事よりもプライベートの充実を望む人が増えているそうです。給与額よりも、休暇や福利厚生が会社を選ぶ重要なポイントになっています。この世代の価値観は、時に企業経営とぶつかり合う時があります。「24時間戦えますか?」というCMが、1980年代に流れていました。その時代を知っている管理職者の嘆きは、いろいろなところで耳にします。こうした「価値観の多様化」の時代において、組織に不足している教育訓練要素が3つあります。

自社ルール・社会人要求・組織人要求は、組織が機能する上で欠かせない大切な要素です(第5回で解説)。図1に、自社ルール・社会人要求・組織人要求の位置付けを示します。これらのルールや要求を満たすための教育が必要です。しかし、中小企業ではこれらのルールや要求に明確な基準を設けておらず、……

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2. 自社ルール教育とは

企業は、常に厳しい競争下にあります。製品やサービスの競争、価格や品質の競争など、他社との差別化をいつも迫られています。そのため、自社が目指すべきレベルを組織の人たちに伝えなければなりません。しかし、言葉だけで共有することは難しいものです。朝礼や会議で伝えたとしても、個人の意識や行動の違いまで、すぐに変えることはできません。5S活動を行えば、整理・整頓・清掃・清潔・しつけという、目に見えるかたちで具体的にプロセスを追いながら、組織の中に浸透させることができます。特に、……

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3. 社会人教育とは

中小企業でよく見られるのは、社会人教育の不完全さです。例えば、あいさつができない、服装がおかしい、電話対応ができないといった社会人を見かけます。また、社員や顧客や取引先との対応で、常識のない発言や行動をする社会人もいます。これも「価値観の多様化」の一つの表れです。家庭や学校で社会人としての常識を身に付けられなかった人たちが、明らかに増えています。以前ならば就職以前の問題だったかもしれません。しかし昨今では、……

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4. 組織人教育とは

組織人として最も大切なことは、自分の役割を理解することです。組織はさまざまな部門や職位から成り立っています。部門や立場を超えて、組織として大きな効果や成果を出すことが、組織人には求められます。しかし、「私は営業だから」「私は製造だから」「私は総務だから」というセクショナリズムに捕らわれてしまうことが、時としてあります。一人一人が狭い感覚で組織を見てしまい、コミュニケーションがうまく機能していない組織にありがちです。

5S活動は全社を巻き込んだ活動です。よって、……

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5. 習得と体得

一般的に企業組織での教育訓練は、OJT(On the Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)を通じて行います。その中で、組織人や社会人に関する教育は、習得と体得を意識しなければなりません。習得と体得は、軍事組織で用いられる教育の考え方です。習得は、座学として原理や由来、歴史などを教える教育訓練です。体得は、実際に体を動かして覚え込ませる教育訓練です。

5S活動を通した教育訓練は、この習得と体得を組み合わせて行います。活動の必要性を全体朝礼で聞いたり、……

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第8回:5S活動の目的と効果

前回は、5S活動と教育訓練の関係を説明しました。5S活動は組織を活性化させるためのツールである以上、活動の目的が必要です。最終回である今回は、活動を継続するために必要な目的と考え方について説明しましょう。

1. 価値観共有のための活動

昨今の企業組織の中で最も分かりにくい言葉は「きちんと」と「ちゃんと」という言葉です。朝礼や会議の席上で、経営者や幹部がこの言葉を使っても、伝えたいことは社員に伝わりません。なぜなら昔と違い、組織の中にさまざまな価値観が混在しているからです。高い給料よりも休みが欲しいという若い世代の考え方は、年配には理解しづらいものであり、逆に年配の考え方も若い世代には理解しづらいのです。組織の中の人間関係のあり方は、一様ではありません。

昔と異なる組織の体質を改めるには、「きちんとしろ」「ちゃんとしろ」「利益を出せ」といったあやふやな言葉を定義付けし、全社に周知させる必要があります。5S活動は、不要なものの統一(整理)や物を置く場所の明示(整頓)、点検保守の考え方(清掃)、行動の基準(清潔・しつけ)を皆で決めます。つまり、組織のさまざまなシーンにおける「きちんと」と「ちゃんと」の再定義を行い、……

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2. 人材育成と5S活動

多くの経営者や幹部の人から「指示待ち社員が多くて困る」という話を聞きます。理由は簡単で、企業組織は「命令」と「指示」で業務を処理しているからです。部下は上司の命令・指示を仰いで仕事をし、命令や指示に逆らうと処分されることがあります。このような環境では、自主的な考えを持った人材は現れません(図3)。

図3:あやふやな指示・命令で部下は指示待ち状態に

5S活動は、部門や職位、世代間の壁を越え、全社を巻き込んで行うプロジェクト活動です。普段の業務・部門から離れたプロジェクト活動の推進者たちは、……

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3. お客さんが評価する

5S活動の最大の効果は、第三者からの評価の向上です。整理・整頓・清掃という目に見える変化はもちろん、清潔・しつけによる普段の行動の変化が、顧客や取引先の印象を大きく変えます。あいさつ・服装・電話対応など、新入社員が学ぶような当たり前の行動をレベルアップさせることで、自社の評価を高めるマーケティング活動になるのです。

人口が減少し、消費構造が変化する中で、……

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4. 最後に

組織の究極の目的は組織の存続と発展であり、そのために営業や商品開発などさまざまな活動を行います。しかし、役職や世代を超え、全社一丸となって組織のために同じ活動を行うのは、5S活動以外にありません。図5は、5S活動が進んだ企業のオフィスの写真です。どんな組織でも、「きちんと」「ちゃんと」を共通言語化することで、ここまで 5S活動のレベルを高めることができます。

図5:5S活動の進んだオフィス

2020年の東京オリンピックに向けて、日本の景気にも明るい話題が出てきました。しかし、過去30年ほどのオリンピック開催国の景気を見てみると、オリンピック後に落ち込んでしまう国が多く、日本も2020年以降に景気減速が予想されています。いずれ訪れる不景気に向けて、準備ができていない組織はすぐに消えてしまうでしょう。これを乗り越えられるかどうかは、各企業のこれからの取り組み次第です。

また、深刻な労働力不足が顕在化しています。良い会社と認知されて求職者から選ばれることが、良い人材を確保するために必要なことです。良い会社とは、……

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