人類の進化を加速させた「手で触る情報操作」 子どもの創造的学習意欲を刺激するパソコンは、ここから始まった

未来を担う日本の子供たちもアラン先生の薫陶を受ける

 2020年から小学校でプログラミングの学習が必須となり、教育の現場では、さあ、どんな授業の組み立て方をしようか、どんなシステムを子供たちにどう使ってもらおうかと思いを巡らせておられる方も多いだろう。

人類の進化を加速させた「手で触る情報操作」 子どもの創造的学習意欲を刺激するパソコンは、ここから始まった

 1968年、アラン・ケイは「Dynabook」という万能な情報端末の概念を発表、1972年には米ボストンで開催されたACM National Conferenceに寄せて「すべての年齢の『子供たち』のためのパーソナルコンピューター」というエッセイを書き、Dynabookという概念を広く世界に知らしめた。そこに二人の子供が登場する。

 子供たちは互いに通信できるノートブックサイズの端末で宇宙ゲームを遊んでいる。ところが、実際に話に聞いている太陽や星の影響が宇宙船に及んでいないのに気がついた二人はゲームのプログラムに少し手を入れようとする。しかし、どうしても想い描く姿にならないため、二人は指導にあたっているヤコブソン先生に駆け寄って行く。ヤコブソン先生はなぜ宇宙船が星に向かって落ちて行かないのかを疑問に思い始めた子供たちに感激して目を輝かせる。

 アランのこのDynabook構想にごく初期に影響を与えたのがMITで学習用のプログラミング言語LOGOを開発したシーモア・パパート博士。のちにアランはフェローとして在籍したAppleでDynabook構想を実現するためのプロジェクトSqueakを立ち上げ、その一環としてあらゆる世代がグラフィカルにプログラミング学習できる環境を作るためSqueak eToysを開発した。残念ながらこのプロジェクトは十分に成熟することなく成長を止めてしまった。しかし、そのSqueakを元に開発されたプログラミング環境Scratchが新しい生命として元気に活躍している。Scratchはタイルブロックを並べてプログラムを組み上げていくが、最近、ウェブだけで開発に取り組むことができるようになるなど、アクセスしやすさが抜群になってきており、普及のスピードを速めている。

 実際、プログラミング教材として採用例も多く、NHKの人気教育番組「Why!?プログラミング」でもメインに「Scratch(スクラッチ)」がフィーチャーされているのはご存知だろう。動作を定義したタイルを並べて行くだけで即座に動くプログラムが作れるScratchはこれから日本の子供たちがプログラミングの概念を学ぶのに強い味方になってくれることだろう。未来の日本を担う子供たちもアラン・ケイ先生の薫陶を受けることになるのだ。