中国製半導体の脱米国依存、支える技術は米国発 - WSJ

このRISC-V技術規格は世界的に関心を集めており、中国の電子商取引最大手アリババグループも早くからの利用企業だ。一部の業界インサイダーは、アリババが現在生産されている中で最高レベルの能力を持つRISC-V半導体を開発したとみている。アリババは、この半導体を同社データセンターの人工知能(AI)に活用しているほか、その一部バージョンの販売も行っていることを明らかにしている。

中国は、西側諸国製の半導体技術への依存から脱却を目指しており、RISC-Vの広範な利用は、こうした取り組みの加速に向けた扉を開く可能性がある。そうなれば、アームのライセンス料収入が脅かされ、また既存の半導体メーカーにとっては新たなライバルの台頭を招く可能性があると、業界幹部やアナリストは指摘している。

ハイテク業界のコンサルティング会社インターナショナル・ビジネス・ストラテジーズのハンデル・ジョーンズ最高経営責任者(CEO)は、「中国は自前の命令セットアーキテクチャーを持ちたいと考えているが、同時にライセンス料不要のアーキテクチャーも求めている。中国でRISC-Vの利用が大幅に拡大しているのはこのためだ」と述べている。

RISC-Vのような半導体のアーキテクチャーは、ソフトウエアの命令をプロセッサーへの指示に変換するための言語を提供する。これによってプロセッサーは、電子メールの送信、ゲームの動きなどのタスクに必要な計算を行う。こうした基本的レベルの指示は、主にインテルとアームによって規定されてきた。インテルのx86の技術を基盤とした半導体は、パソコン、サーバー市場を支配しており、アームの技術は、アップルなどの企業にライセンス供与を行うことで、スマホなどの携帯機器の市場を支配している。アップルなどは、その技術に独自の改良を加えている。

RISC-Vはオープンソース型なので、技術情報の詳細が公開されており、改良方法が自由に議論されている。インテルとアームが現在提供しているものと比べれば、RISC-Vの技術は依然として、能力面で大きく後れたままだ。アリババによれば、同社の半導体は数年前の携帯電話用プロセッサーと同等の能力しか持っていない。しかし、著名な研究者や米主要企業を含むRISC-Vの支持者らは、オープンソースの動きがソフトウエア分野に与えたような変化を、RISC-Vがハードウエア分野にもたらし、既存の大企業の支配力を弱め、現代のコンピューター技術の民主化につながることを期待している。

RISC-Vを後押しするパイオニアの1人、デービッド・パターソン氏は、「人々はこのビジョンに熱狂して前進している。それが長期的に有望だとみているからだ」と話す。この技術はそれに代わる技術ほど成熟していないかもしれないが、成長の可能性は無限大だと同氏は述べる。

カリフォルニア大学バークレー校を起点とするRISC-Vの取り組みの始まりは、10年ほど前にさかのぼるが、今年のエヌビディアによる画期的なアームの買収と米中間の技術をめぐる対立によって、RISC-Vへの関心は一層高まっている。

このアーキテクチャーの採用は加速している。RISK-V規格の推進団体「RISC-Vインターナショナル」のキャリスタ・レッドモンドCEOによると、同団体の会員数は昨年、64%増えて750を超えた。「それは(研究開発の)部署から、実際に何かを作って、どう動くのかを見てみようという段階に移っている」という。

中国からすると、この技術は、米国の輸出制限から中国を守る助けになり得る枠組みを提供する。米政府は2019年に中国通信大手の華為技術(ファーウェイ)を輸出に関するブラックリストに加え、中芯国際集成電路製造(SMIC)など、その他の中国半導体大手に制限を課す動きに出た。SMICは昨年12月に輸出のブラックリストに追加された。ファーウェイが米国のブラックリストに加えられた後、アームが一時的にファーウェイとの取引を中止したことにより、警戒感は一層強まった。

中国製半導体の脱米国依存、支える技術は米国発 - WSJ

RISC-Vだけでは、中国が半導体に関して外国のサプライヤーに依存する状況を解消することはできないだろう。同国は依然として、主要な半導体設計ソフトや製造ツールなど、その他の外国の技術にも依存している。

一部の米当局者は、中国による同規格の受け入れを警戒しながら見ている。RISC-Vは、部分的に国防総省の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)からの支援を受けて開発されており、当初は学術機関が私有のシステムにロイヤルティー(使用料)を支払うことなしにプロジェクトに取り組むためのツールとして開発が進められていた。米国が中国の技術力の成長を懸念する中、一部の当局者はRISC-Vなどのオープンソース・プロジェクトの成果に中国のアクセスを容認することで、中国に強みを与えてしまうのではないかと心配している。

DARPAで半導体プロジェクトを監督するプログラムマネジャーのサージ・リーフ氏は、「中国は20年分のエンジニアリングをせずに、一夜にして西側の技術に追いつくのだから、私はこの技術で中国に手を貸していると指摘する向きがあるが、そうはならないだろう」と話した。

RISC-Vを支持する人々は、中国による採用意欲は強いものの、同アーキテクチャーは欧州や米国でも急速に広がっておりRISC-Vインターナショナルの下で同アーキテクチャーを利用するメンバーは北米、アジア太平洋、欧州にほぼ均等に分かれていると指摘する。

RISC-Vを管理する国際的な組織であるRISC-Vインターナショナルは昨年、本部を米国からスイスに移転した(訳注=旧組織であるRISC-Vファンデーションからの移行に伴って移転)。北京の清華大学を拠点としたRISC-Vに重点を置いた研究所を率いるパターソン氏によれば、この移転は、米国の輸出規制によって活動が縛られてしまう可能性があるとのメンバーの懸念に対応したものだが、米中貿易紛争の直結的影響を受けた措置ではなかった。

中国の地方政府間のハイテク分野の主導権争いはRISC-V関連の開発の動きを加速させていると、RISC-Vの(アジア太平洋)地域タスクフォースの共同会長を務める上海在住の半導体エンジニア、アレックス・グオ(Alex Guo)氏は話す。グオ氏はまた、アーム社に支払わなければならないライセンス料の額と、オープンソースのためより容易にシステムを構築できるという事実がRISC-Vの利用に弾みをつけていると指摘した。

これについてアーム社はコメントしていない。

その日の注目記事をまとめてお届けします。(配信日:月曜日から金曜日)

購読

エヌビディアによるアーム買収計画は、エヌビディアがアーム技術のライセンス料の引き上げ、あるいは競争上の理由からのアーム社と他社の関係への介入などを引き起こすのではないかとの懸念を半導体業界関係者にもたらした。エヌビディアはそんなことはしないと述べているが、競合企業はRISC-Vをそうした事態に備えた保険と見なしている。

米半導体大手クアルコムと韓国のサムスン電子はスマートフォン向けに製造する主要半導体チップの一部にRISC-Vを採用している。現在のRISC-Vの商業利用の大半はこれまでのところ、キーボードからのデータのルーティングなど狭いタスクを実行するため、より強力なシステムに組み込まれているマイクロコントローラーに限定されている。

RISC-V規格を統括するRISC-Vインターナショナルの役員会メンバーで、米データストレージ大手ウエスタンデジタルの上級役員を務めるズボニミール・バンディック(Zvonimir Bandic)氏は、「われわれは目標を少し高めに設定している」と語った。同社は、データストレージ・ドライブのデータ処理にRISC-Vチップを採用している。同社は、今後ほぼ5年以内にRISC-V規格を採用した上級機種のコンピューター生産を目指すという野心的な計画を立てている。