米中摩擦に慣れた投資家、中印緊張リスクも浮上 - WSJ

――投資家向けコラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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インドと中国の緊張が高まっており、予想外のところで巻き添え被害が発生しつつある。

投資家は米中の緊張を、アジアに存在する不穏で大きなビジネスリスクと考えることに慣れている。しかし、同地域で発展途上の2大国、中国とインドの摩擦もますます重要性を帯びている。シンガポールの人々に聞いてみれば分かることだ。

インド政府は先ごろ、中国のインターネットサービス大手、テンセントホールディングスや電子商取引大手アリババグループが発行しているアプリを含めた主に中国製のアプリ54本を、セキュリティ上の懸念から禁止した。同国は2020年にも、動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」やソーシャルメディア「微信(ウィーチャット)」など59の中国製アプリやゲームを禁止していた。

不思議なことに、今回の禁止リストには、ニューヨーク上場のシンガポール企業シー(Sea)が保有するオンラインゲーム「フリーファイア」が入っている。実のところ、シーは当初、インドによる2年前の中国製ゲーム禁止措置の恩恵を受けていた。テンセントが発行する「PUMGモバイル」が禁止されたことで、フリーファイアはインドで人気トップのモバイルゲームの座を奪取したのだ。

米中摩擦に慣れた投資家、中印緊張リスクも浮上 - WSJ

インド政府はフリーファイアを禁止した理由を説明していないが、シーとテンセントの関係が理由かもしれない。テンセントはシーの長年の株主で、先月に約30億ドルで持ち株の一部を現金化し、現在は約19%を所有している。ただ、テンセントは同社を支配していない。実際、シーの株主は先月、テンセントの議決権を10%未満に減らすというリストラ計画を承認したばかりだ。シーは発表文で、インドのフリーファイアの状況を認識しているとした上で、自社はシンガポール企業であり、インドのユーザーデータを中国に転送したり保管したりすることはないと強調した。

こうした展開はどれも、10月以降に時価総額の3分の2近くを失ったシーの傷口に塩を塗るようなものだ。報道を受け、シー株は14日の取引で18%急落。その後いくらか値を戻したが、それでも週間で大幅安となった。アナリストの推計では、インドはシーのゲーム売上高のおよそ10~15%を占める。シーは、東南アジア最大の電子商取引プラットフォーム「ショッピー」も運営している。

インド政府はソフトウエア企業に対する禁止措置では強権を振るうが、ハードウエアでは話が異なる。それでも、規制当局は中国とつながりのあるハードウエア大手を他の方法で追及する手は緩めていない。


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インド当局は、脱税の疑いで中国の大手テクノロジー企業である華為技術(ファーウェイ)のオフィスを捜索している。中国の同業他社である中興通訊(ZTE)や、スマートフォンメーカーの広東欧珀移動通信(Oppo、オッポ)、小米(シャオミ)も昨年、同様に家宅捜索を受けている。

ファーウェイとZTEはインドの既存ネットワークの一部を構築したが、インドは既に両社を第5世代移動通信システム(5G)の試験運用から排除している。カウンターポイント・リサーチによると、中国のスマホブランドは2021年7-9月期インドのスマホ市場の4分の3近くを占めていた。シャオミは約22%の市場シェアを握る最大手だ。しかし、まともな代替品がないため、こうした中国メーカーを追い出すのは難しい。中国のスマホメーカーはまた、インドで携帯電話を組み立てており、雇用を創出している。

インドのナショナリズムの高まり、経済力、中国への対抗意識は当面、世界経済の注目材料となる可能性が高そうだ。たとえ遠く離れた資産に思えても、それを無視する投資家は手痛い目にあうだろう。