アドレナリンを出せば運動がクセになって気分もすっきり。で、どうすればいいの?

荒野でヒヒに襲われた気持ちになって。

食べる量のわりになんだかんだ忙しくて運動不足になりがちな冬休み、飲み会と飲み会のはざまにダレきった自分の体をうっかり直視したりするともうウンザリしますよね…。でもいざ運動するぜ!とか思っても、なかなか続かなかったりして、ますます自己嫌悪になりがちです。

でも、人間の体には運動の効果を高めてかつ長続きさせるしかけがあって、それをうまく使えば体型も改善、ストレスも解消できるんです。そのしかけとは、アドレナリン分泌の仕組みです。アドレナリンをうまくコントロールできればまさにエクササイズ中毒になって、疲れてても運動せずにはいられない体になっちゃうんです。

アドレナリンとは、腎臓の隣にある臓器、副腎で作られるホルモンのひとつです。ちなみに副腎は腎臓の上にひとつずつあるので、ひとりの体にふたつあります。ここが特定の刺激に反応していろんなホルモンを血流に流し込むんですが、アドレナリンに関しては、大体何かしらのストレスに応じて分泌されます。

アドレナリンは一般に闘争や逃走反射と結びつくホルモンなので、人類が生き延びるために大きな役割を果たしてきました。危険な状況に直面すると、副腎がアドレナリンを血流に一気に流し込みます。これには、人間の生命を救うためのいくつかの効果があります。

まず血管、それに酸素の通り道を広げます。これで脳内の酸素が増えて注意力が向上するだけじゃなく、筋肉内の血流が増える(ことで酸素がたくさん流れる)と力が増強され、身体的パフォーマンスが一時的に爆上がりします。なので荒野で荒れ狂った野生のヒヒに出くわしたときなんかは、アドレナリンが噴出されることでヒヒと格闘したり、全速で逃げたりといったアクションの役に立ちます。火事場のバカ力ってやつですね。でも荒野とか今どきあまり行かないので、アドレナリンが現実的な場面で役立つのは、きつい運動をするときです。

アドレナリンが出ることで、副次的効果もあります。アドレナリンが脳に到達すると、エンドルフィンやドーパミン、ノルアドレナリンといった物質もちょろちょろ出てきます。Psychology Todayによればエンドルフィンにはモルヒネみたいに痛みを和らげる効果があり、ノルアドレナリンにもスピード(覚せい剤)みたいな効果、それからドーパミンはコカインを使うと出てくるのと同じ物質です。言い換えればアドレナリンが出ると、コカインとスピードとヘロインをちゃんぽんで摂取したような状態になって、麻薬と同様に強い中毒性もあります。なので取り扱いには注意が必要なんです。

これから運動を始めようってとき、自分のエンジンをかけるにはアドレナリンがてきめんに効きます。延々とジョギングしてクタクタのとき、突然暴漢が斧をふりかざして追いかけてきたと想像してみましょう。多分クタクタが吹き飛ぶと同時に体の隠し倉庫みたいなところからエネルギーが噴き出してきて、力の限り逃げ出すことでしょう。上に書いたようなドラッグ的効果のおかげで、脚の疲れもそんなに感じません。アドレナリンが出てくると、体をだますことができるんです。

でももっと大事なのは、依存性を利用できるってことです。多くの人は、毎日ストレスという形でアドレナリンを貯めこんでいると思います。仕事の疲れ、車の運転中のヒヤリハット、恋人との喧嘩、などなど。これらはみんな体がストレスとして認識して、アドレナリンの放出を引き起こすものです。でもそのときにオフィスのイスとか車の中とか家のソファとかにいて何もしないと、アドレナリンもそのままになってしまいます。これは良くないことで、その理由を次に説明します。

アドレナリンをある種の強い運動で分泌させて運動し終わると、その後気持ち良くなる物質が分泌されます。ちょうどヒヒから無事逃げ切って洞窟に戻ってきたときみたいに、安心感に満たされることができます。脳が危険は終わったと感じて、体の報酬システムが陶酔感や平和を感じる物質を出すんです。だから適切な運動をすると、その日のストレスを解消できるだけじゃなく、恍惚感にひたることができます。

アドレナリンを出せば運動がクセになって気分もすっきり。で、どうすればいいの?

ただ注意が必要なのは、脳がその報酬システムの出す物質をもっともっととたくさん要求するあまり、「もし体が激しく運動したら、その後気持ち良い物質が出る」ってことを記憶し始めるってことです。脳がこれらの物質を激しい運動と強く結びつければ結びつけるほど、運動はますます魅力的になっています。なので1日の終わりで「あー疲れた、もう運動つらいなー」なんて思っていても、運動せずにはいられなくなるんです。

アドレナリンジャンキーって言葉は、単なる比喩とかじゃありません。上に書いたようにアドレナリンは文字通り薬物であり、薬物である以上乱用もありえます。だから、どんどんクレイジーなことに挑戦しようとする人が出てきます。恐怖感からアドレナリン分泌されている場合、同じレベルの刺激に飽きたらなくなってきて、さらに恐ろしいこと、恐ろしいことを追い求めるようになります。そうなると危険が伴ってきますが、幸いそんな状況を回避する方法もあるので後述します。

もうひとつ避けるべきなのは、アドレナリンを貯め込むだけで有効に使わないことです。貯め込んだアドレナリン(ともうひとつ、副腎がストレスに対応して出すコルチゾール)は継続的なイライラやストレス感の原因になり、いろんな副作用を起こします。そんな状況にあると、体は自分が生きるか死ぬかの状況にあると考え、そこから脱するために不要不急の体の働きを抑えてしまいます。食べ物の消化はまず最初にシャットダウンされることのひとつですし、免疫システムも抑制されます。それから睡眠も取りにくくなるし、心拍数とか血圧も上がりっぱなしになります。

なのでこの状態が続くと、健康的じゃなくなります。だから運動、それも正しい運動が、健康を維持するには必須なんです。アドレナリンが出るようなスポーツなんて自分とは無縁、と思っている人でも、普通の退屈でストレスフルな仕事をしてるだけで、アドレナリンは貯まっていくんです。

・一部のエクストリームスポーツ

エクストリームスポーツ、またの名をアクションスポーツの中には、スカイダイビングやベースジャンピングのような本当にエクストリーム(極端)なものもあれば、サーフィンやスノーボードのようなポピュラーなものもあります。エクストリームスポーツ界にはアドレナリンジャンキーと言われる人がたくさんいて、あまり激しいものは健康維持には適していません。たとえばスカイダイビングなんてアドレナリンがドバっと出るんでしょうが、筋肉をそれほど使わないので貯まってしまう分も多いし、時間も短いから脂肪燃焼もしきれず、体型改善にもなりません。心拍数が数分間バックバックになったところで、それほどカロリーは消費できません。

そうじゃないエクストリームスポーツとして、スノーボードやマウンテンバイク、サーフィンなどがおすすめです。特にサーフィンは良い例で、パドリングでウォームアップして、ラインナップで省エネモード、そして波を捉えようとするときには闘争・逃走モードになります。要はアドレナリンが出るくらいのワクワク感があって、さらに強度の強い筋肉運動もできるようなスポーツがいいんです。

アドレナリンを求めるあまり、単に恐怖感を味わえるって理由でスポーツを選ぶのはオススメできません。それよりもワクワクする楽しさが動機になっていれば、「運動してる」って意識すらしなくなるはずです。

・インターバルトレーニング

アドレナリンは厳しい場面から抜け出すためのものなので、長くゆっくりしたジョギングはオススメしません。強く、集中的な運動がいいんです。

きつい運動とゆるい運動を交互にするインターバルトレーニングって、想像するだにげんなりする人も多いと思います。だってゆっくり一定ペースの運動の方が、ずっと楽ですもんね。でも、ストレスとか無駄なアドレナリンを発散するにはインターバルトレーニングが適していて、それに運動の効果も早く出ます。インターバルトレーニングをすれば脳の報酬システムが稼働して、気分もすっきりします。

インターバルトレーニングに関しては、どんな運動でも大丈夫です。ランニングやサイクリングが好きなら、ワークインターバルの間は何かに追いかけられてると想像するといいです。ウェイトトレーニングの場合はクマと戦ってるつもりになったり、泳ぐときはサメに追いかけられてる気持ちとか、とにかくどんなスポーツでもこれはあてはまります。

ただ注意した方がいいのは、最初はゆっくり始めることです。アドレナリンが分泌されると、必要以上に強い運動が可能になってしまいます。でもしっかりした筋肉ができあがるまでには時間がかかるし、腱とか靭帯は血流が少ない分もっとゆっくりです。なので慌てずゆっくり始めないと、どこかしら痛めてしまう危険があります。

・新鮮さを保つ

体型改善のために運動量をどんどん増やし続けたり、より危険を伴う運動をする必要はないし、そうしちゃいけません。同じ運動で効いてる感じが薄れてきたら、何かをちょっと変えてみましょう。脳は未知のものを恐れるので、何か新しいものを試したり、または同じものでも新しい場所でやってみたりすると、アドレナリン分泌に役立ちます。知らない山でスキーするのもよし、ランニングじゃなくスイミングにしてみるもよしです。

退屈は敵です。でもそれは、ちょっと工夫するだけでタダまたは安価に回避可能です。いつもの運動にちょっとした新しさ、アドレナリン分泌要素を加えることで、再度ワクワク感が得られます。ワクワクがあることで運動効果も高まって、さらに「またやろう」って継続効果も出てくるんです。

[Psycology Today、Image credit:Shutterstock/bikeriderlondon ]

Brent Rose(原文/miho)