MWC 18で見えてきた5Gを巡るIntelとQualcommの熱いつばぜり合い

こうした5G、そしてその標準仕様である5G NRのメリットはなんだろうか。「通信速度が速くなるだけでしょ?」と誤解している人も少なくないが、それでは5Gの表面部分しか見えていない。5Gのメリットをもっと大きく表現するなら“通信速度の高速化、超低遅延、インフラ側の柔軟性の向上”にある。

通信速度が向上するというのは、わかりやすい5Gの1つ目のメリットだ。5Gでは10Gbpsを超えるピーク時下りの転送速度が実現されることが想定されており、実際MWCでは、現在LTEで実現可能な2Gbpsを上回る、3~4Gbpsの下り転送速度がデモされていた。

5Gで4Gを上回る通信速度が実現できる理由はいくつかある。大きなものの1つは5Gで「ミリ波」と呼ばれる28GHz超の超広帯域の周波数を利用して通信できるようになることだ。

5Gで下りの通信速度が速くなる、それを実現する技術(出典:ノキアソリューションズ&ネットワークス)

現在のLTEなどでは、サブ6GHzと呼ばれる6GHz以下、といっても実際にはほとんどの国では3GHz以下の周波数を利用して通信が行なわれている。日本であれば700~800MHz、1.5GHz、2GHz、2.5GHzの周波数帯を利用しているが、今後は28GHz超のミリ波を通信に割り当てることでより高速な通信が可能になる。

ただし、こうしたミリ波などの超広帯域の周波数は電波の直進性が強く、カバーできるレンジもサブ6GHzに比べるとせまくなる。このため、それでも問題がない都心部や高速道路や鉄道の沿線といった部分をピンポイントでカバーする形になる。

5Gでは、こうした複数の周波数帯を最大で8つまでキャリアアグリゲーション(CA)として使うことができ、サブ6GHz、ミリ波、そして既存のLTEなども含めてCAすることで、下り10Gbpsという高速な通信を実現する仕組みになっている。

高い信頼性で低遅延を実現する5G(出典:ノキアソリューションズ&ネットワークス)

そして5Gの2つ目のメリットは1ms以下という超低遅延で高い信頼性を実現することだ。これは「URLLC(Ultra-Reliable Low Latency Communication)」と呼ばれ、5Gのインフラ側(コア)に導入される、新しいネットワーク機器などにより実現される。

5Gのコアは、従来のハードウェアベースの機器ではなく、IAサーバーのような汎用ハードウェアの上に構築されるNFV(Network Functions Virtualization、仮想ネットワーク機器)、SDN(Software Defined Networking)などのソフトウェアベースのネットワーク環境になっている。

MWC 18で見えてきた5Gを巡るIntelとQualcommの熱いつばぜり合い

また、無線部分(RAN)も、Flex RANなどと呼ばれるソフトウェアで定義される無線などに置き換えることが可能になっており、それらの合わせ技で低遅延を実現している。ただし、その場合には、インフラを5GネイティブなSAにする必要がある(厳密に言えばNSAでも一部をNFVにしたりは可能)。

NOKIA社のMWCでのデモ、遠隔地にある(この場合はそう見立てた)ロボットを、ディスプレイを経由してリモコンで操作する様子。リモコンにはハプティックも入っており、フォースフィードバックも実現されている

こうした低遅延が実現されるとなにができるかと言えば、たとえばマシンの遠隔操作などを5G経由でできるようになる。ネットワーク機器ベンダーのNokiaブースでは低遅延を利用して遠隔地からマシンを操作する様子を公開していた。

Wi-Fiで行なうと遅延が大きくてまったく使いものにならないのが、5Gでは超低遅延により、遠隔でリモート手術したり、倉庫の操作をリモートで人間が行なうといった用途を実現できる。

コアのデザインはNFVやSDNを利用して汎用のサーバーで実現されている

3つ目のメリットは、とくにSAのインフラにした場合、ネットワークの柔軟性が向上することだ。NFVやSDNを導入することで、ネットワーク機器がソフトウェアベースになるので、新しい機能やサービスを通信キャリアが追加したいと思ったときには、ソフトウェア的に行なうことができる(それに見合うだけのハードウェアのリソースが確保されているという条件はつく)。

5Gでは無線部分でさえ、Flex RANなどによりソフトウェアベースで実現されるようになるため、非常に柔軟なサービス構築が可能になる。

NTTドコモがMWCで行なっていたエッジコンピューティングのデモ。エッジに置かれたサーバー情報に送られた障害物のデータを元に自動運転車がそれをよけながら運行を行なっていたKDDIのエッジコンピューティングの概要説明、通信キャリア側でもエッジコンピューティングの取り組みが始まっている

たとえば、今後は自動運転車などが増えていくと、自動運転車と自動車メーカーのクラウドサーバー間でやりとりするデータが増えていくことになる。

Intelの予測では2020年に自動運転車が生成するデータは1日につき4.5TBだという。1日で3.5インチHDDが1つ分という計算だ。最初は自動運転車の数も少ないため、ある程度は自動車側でフィルタリングして送れば対処できると思うが、台数が増えればネットワークがパンクすることは目に見えている。

そこで、現在は「エッジコンピューティング」というソリューションが検討されており、一度基地局に近いところに「エッジサーバー」と呼ばれる専用のサーバーを置き、そこである程度処理してから、自動車メーカーのクラウドサーバーに送るという仕組みだ。

今後、ドローンなどを5Gで操作する場合、あるいは動画の配信を5G回線を通じて行なう場合などには、やはり同様の仕組みが必要になると考えられるが、5Gのような仕組みであれば、エッジサーバーを設置するのもNFVによってソフトウェア的にできるようになる。そうした柔軟性を備えているのが5Gの特徴となる。

このように見ていくと、既存のデータ端末(スマートフォンやPCなど)に関しては高速な通信となるが、将来的にIoT機器と呼ばれる新しいタイプのデータ端末が登場するようになると、高信頼性の低遅延、柔軟なネットワーク構成という特徴が生きてくるということができるだろう。